読書「スイート・ホーム」原田マハ

原田マハさんといえば、「楽園のカンヴァス」や「アノニム」といったアート系小説の第一人者で、今回もアート系小説家と思って読み始めたら全然違っていて、いい意味で期待を裏切られた作品。

スイート・ホームとは阪神エリアの小高い丘の上に建てられた、一軒屋のケーキ屋さん。元宝塚ホテル勤務のパティシエのお父さん、お母さん、二人の娘が暮らすスイート・ホームを巡る、少女っぽい恋愛と家族のほんわりとした暖かさに包まれている。

そんなケーキ屋さんには、自然と家族が集まり、客も増え、取り囲む人たちの笑顔と雰囲気が素敵な好循環を生んでいて、そこには悪意を持った人もいない、まさに優しい気持ちになれるスイート・ホーム。

具体的な場所の描写はないけれど、「梅田から山側の電車に乗って」「駅を降りたらバスに乗って山側に向かい」「店からは海が見え」「西宮方面も一望できる」というヒントから近辺に住んでいる人ならおおよその予測はつくものです。

むしろ、よくここまで細かい描写を描けるものだと思ったら、著者は関西学院大学出身なのでした。他にも、美しい校舎の関西学院大学、甲山にある会員制テニスクラブなど、この辺の描写も住んでいた人にしか分からない感じかもしれない。

実在するとしたら阪急御影駅か阪急六甲駅から山側に少し行ったところ。閑静な住宅街の中に小ぢんまりとした佇まいのお店でしょうか。でも、なんか実際にありそうな気がするのです。こんな店が。

スイート・ホームを巡るショートストーリーは、少しずつ年月が経過していき、店や家族の付き合い方が少しずつ変わっていく。けれど変わらないものはパティシエであるお父さんの頑固ながらも美味しいスイーツの数々と家族の笑顔。

女の子中心の恋愛心理描写は男性から見ると分からない部分でありつつも、こんな事を考えているのか、と思うと可愛らしく思えてしまう。基本的にはみんなうまく行ってしまう幸せストーリーなので、本当はそんなことあるかい!というツッコミは無粋というものでしょう。

こんなケーキ屋さん、あったら良いのにな、と思ったら、家の近くにも昔っから地元民に愛され続けているケーキ屋さんがありました。その名は元町ケーキ。この本を読んだら、ちょっと家族全員分のケーキを買いに行きたくなりました。そんな優しい気持ちになれる一冊でした。

阪急御影駅近くの山手幹線を散歩してこようっと。