他人を信じることの難しさ〜「望み」雫井脩介

読書(小説)

雫井脩介さんの「望み」を読んだ。

タイトルになっている「望み」は人が抱く希望であり、こうあって欲しいという願い。一つの事象に対して何を願うかは人によって違う。

そして、望んだ結果になることもあれば望まない結果になることもある。

果たして望みは叶うのか。そんな心情の変化を巧みに描写した小説。

 

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あらすじ

建築家の父親、在宅ワークの母親、高校生の長男、中学生の長女。

何不自由ない生活を送っていそうで、周囲から見ると羨ましがられるような一家4人。

ある夜に外出したままの長男が連絡もなく帰宅しない。

夜遊びが好きな年頃だが、帰ってきたらそろそろ締めた方がよいかと思っていたところ、不信な情報が入ってくる。

長男の学校の生徒数人が行方不明になっている、無免許運転の車が自損事故を起こして数人が車から逃げ出した、車の中には高校生の死体が入っていた…

いまだ見つからない長男。殺人の加害者として逃げ回っているのか、あるいは被害者として殺されてしまっているのか。

すれ違う父親と母親の気持ち。

それぞれに異なる願い。かなうのはどちらの願いか。

 

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感想

人を殺すくらいなら、むしろ殺される側であって欲しい、と願う父親。

人殺しでも何でもいいから、死なないで生きていて欲しい、と願う母親。

 

最初に見つかった被害者が父親の仕事での取引先の身内であり、殺人容疑者としてマスコミからも注目されたことが、父親の思考を誘導したのか、それとも本心からそう願っていたのか。

ストーリーの中で揺れ動く心理描写は、同じ父親としては痛いほど分かる。

生きていて欲しい、でも、せめて殺人者であっては欲しくない、自分の仕事での利害関係を抜きにして一人の人間として。

最後、自分の気持ちに整理がつき、やっとこの境地まで達したのに警察から届いた連絡は、自分の望み通りの結末だった…

 

ひょっとしたら息子が殺人者でもなく被害者でもなく、第三者として生き残ってる可能性もあるんじゃないかと思ったが、そんな甘い考えをバッサリ切り捨てるラスト。

死んだ後から気付く息子の心と悩み、思春期の男子が親に胸の内を明かすことは少ないだろう。これは自分自身もそうだった。

ささやかな言動や行動の変化をどこまで感じ取ってあげることができるか。

親として本当に難しいことである。しかし、後悔するような育て方はしたくない、もし同じようなシチュエーションがあったとき、自分は何を望むだろうか。

そして、人の心とは、こんなに不確実な情報一つでここまで揺れ動き、人を狂わせるものなのだろうか。

そう考えると、やはり一番恐ろしいのは人間の心理である。事実のみを見極めて動く心を手に入れる、これは大変なことなのだろうが、そこに辿り着けるようになりたいものである。

 

 

 

 

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