【読書】ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治)

タイトルと帯に書かれた衝撃的なケーキを切った図だけを見たときは、勉強できない子の話だったり、教育が遺伝か環境か、という話なのかと思っていたが、これはそういうレベルの話ではありませんでした。

また、「勉強ができない」という切り口だけで、このケーキの図を書いた少年たちの回答をおバカ回答集として笑って済ませる話でもありません。もっと事態は深刻。

一時期、芸能人がクイズ番組でおバカ回答をすることがもてはやされました。今でも一部残っているようだが、あれは自分よりバカな人を見て「私の方がまともだ」ということを確認するものなのかもしれない。いや、そもそも普通に高学歴で勉強ができる人が、おバカ芸能人のおバカ回答を見ても楽しめるわけがない。つまり、勉強できない人が「俺よりバカがいる」という光景を作り出していたのか。

本書のタイトルにあるケーキを等分に切り分ける話はまだかわいくて、途中で『図を模写する』という課題に対して提出された絵が衝撃的である。図は〇、△、□などの簡単な図を組み合わせたものなのだが、これを正確に写せないのである。ちょっとズレているとか勘違いしているとかじゃなく、明らかに何を見て書いているのか想像すらできないレベルなのである。

これはちょっと冷や汗が出る。つまり、物事を二次元でも三次元でも正確に把握してない、ということの現れなのだという。

そりゃ、いくら話を聞かせても、理解できている訳がないのである。おそらく冗談抜きで「言ってる意味が分かりません」なのだと思う。事実を事実として把握する認知機能が衰えていると、当然ながら勉強はできないし人の話も聞けないし人の気持ちも理解できないのである。それはそうだ。

だいたい小学校の途中から勉強に付いていけなくなり、中学校に行ったらもっとさっぱり。親も教えてくれなくて、誰も相手にしてくれないから、徐々に悪い先輩や仲間に誘われるがまま悪事に手を染める。そして少年院へというお決まりコース。

ここから更生して真面目に社会で働くようになる前に、まずは認知機能をしっかりと鍛え、小学生レベルの算数や国語から理解できるように教えることが肝要だという。本人たちも目を輝かせながら、勉強がわかること、覚えられることを楽しむのだという。

それがきちんとできるようになれば、社会復帰はできるが、そこが難しいと社会に戻っても、また犯罪を犯してしまう。

「ダメなやつは何をやってもダメなんだ」ではなく、小学生のころから、きちんと『特別な』支援が必要な生徒であることを識別して、ゆっくり教えて認知機能を強化することで、非行に走ることを防げるかもしれない、という。

たしかに学校の授業はカリキュラムがある程度決まっているので、常に支援が必要な子のペースに合わせるのは難しい。そうすると、勉強ができる子は時間を持て余してしまうし、何より親からのクレームもあるだろう。

しかし、そうやって手から零れ落ちた子供たちが非行化することで治安は悪化し、警察や少年院に掛かる費用、つまりは税金、がどんどん必要となる。そう考えると、普通に暮らせている健常者にとっても他人事ではないことがわかる。

そういった支援が必要な人たちにしっかり支援することで、非行は減り、税金は育児や福祉に予算を配分することができるようになり、その子たちが働くことで労働力不足も解消できる可能性を秘めている。

我々の世の中は繋がっているのであり、社会の階層化と固定化は、結局は周りまわって社会全体の活気が低下してしまうのかもしれない。

すぐに自分ができることは見つからないのだが、自分が納めている税金が、このように社会全体を変える可能性がある事業に使われるのであれば嬉しい。少年犯罪と更生に長く携わった著者の提言は恐ろしい現実であった。

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