読書「ある男(平野啓一郎)」他人の人生を歩むことで未来は変えられるのか

主人公の弁護士である城戸は、過去に離婚調停の依頼人であった女性が離婚成立後に巻き込まれた奇妙な事件に足を突っ込む。女性が再婚した男性は、名乗っていた人物とはまったく別人であることが死後判明する。

入れ替わっていた男『X』は何者なのか。城戸は弁護士という立場を使い本当の人物にたどり着く。

謎解きの答えは最初から分かっている。売買による戸籍交換である。その謎自体は珍しくない。誰かが「谷口大祐」の戸籍を買い取り、宮崎にたどり着いて林業に就職し結婚したのだ。

その人がその人たるゆえんはどこにあるのか。戸籍上の名前なのか、辿ってきた人生なのか。だが、名前を変え、記憶すら別人のものを語っている場合、その人はいったい誰なのか。人を形作っているものは何なのか考えさせられる。

今までに会った人が語っていた名前や人生は果たして本当のものなのか。自分は他人の人生に成りすますことができるのか。そして違う人生を歩むことができるのか。

戸籍交換後の二人が歩んでいる人生は真逆である。一方は前を向き地道に歩み、他方は卑屈になり過去に固執し続けている。つまり、違う人生を歩むことはできるが、戸籍を交換するに至る理由や本人の気持ち次第で人生は変わる。

その人を規定するのは過去ではなく現在と未来であるということ。

また、妻子持ちのアラフォー男性の悲哀も満遍なく描かれ、悲しいくらい理解できる。出会った女性に好意を持ってしまうがワンチャンなんてある訳ないと悲嘆にくれ、妻には浮気を疑われた挙句に妻自身が浮気するとか、そら他人の人生を歩んでみようかと思うくらいなのである。

タイトルとURLをコピーしました